【AK-69】ニューアルバム「THE ANTHEM」オフィシャル・ライナー・ノーツ公開! 第1回はライター山田文大さん

 2019年はAK-69のソロデビュー15周年の年だ。今・現在、AK-69は世間でどのように認知されているアーティストなのだろう。Def Jam移籍第一弾作品『DAWN』以来、約2年半ぶりとなるアルバム『THE ANTHEM』の発売を1カ月後、さらに2カ月後には日本武道館での2デイズを控えた今・現在。

 日本のヒップホップシーンを牽引し、端的に一番売れているラップスター。前代未聞のニュースを提供し続ける、既に十分勝ち上がりスターダムにいる男……だろうか。インディペンデントから席巻し、Def Jamへの電撃移籍を果たして以降も、Toshi(X JAPAN)とのコラボ、通算3度目となる武道館ライブ2デイズ開催と最近までニュースは尽きない。

 天下布武の城を前に白いロールス・ロイスを乗り回す「KINGPIN」(『DAWN』収録)のMVが象徴する世界はAK-69にとって絵空事ではないし(今は既に車を乗り換えたと風の噂で聞いたが)、それらは撮影用に用意された借り物の虚像ではない。むしろAK-69がこだわってきたのは、それらが当たり前にすべて「リアルであること」だった。ここでいうリアルの意味はシンプルだ。AK-69を形作るもの、彩るもの、それらのすべてはAK-69がみずからの人生から削り出した歌、言葉、音楽で勝ち得たものだということ。それこそがAK-69がヒップホップと取り交わした約束であり、亡き盟友TOKONA-Xへの誓いと言えるかもしれない。

 このライナーで、つまり『THE ANTHEM』を聴く(愉しむ)上で筆者が伝えたいこと、AK-69について知っていて欲しいと思うことを少しだけ書こう。まず、AK-69は生まれながらの天才ではないし、歌の才能が突出してあったから音楽でメシを食っている……という類のアーティストではない。この説明はAK-69に対して失礼というものだ。かつてAK-69にはKalassy Nikoff(カラシニコフ)というシンガーとしての別名義があり、作品もリリースしている。AK-69は活動の当初からラップだけでなく歌も歌っていたわけだが、一昔前まで、なぜかそれについて「売れ線に走る」「ポップ」というネガティブな論調があった。音楽をやっているのに、歌を歌う=売れ線に走る云々というのは、今にして考えるとなかなか興味深い価値観だが、とにかくAK-69は最初から自分の欲求に正直に活動し(=歌いたいから歌い)、それに対してジェラス半分の批判があった。AK-69は活動の当初から、いま私たちの眼に映っているように順風満帆だったわけではない。

 だが、そもそも(今作『THE ANTHEM』にまで一貫する話だが)AK-69の「詩/言葉」は決してポップではなかったし、「売れ線」というほどコナれたものではない。「~だて」というイナタイ名古屋訛りの日本語を当たり前に多用する「歌」は、AK-69が登場するまで日本には存在しなかったはずだし(それをいち早く縦横無尽のラップで表現したのがT-Xだった)、そういう意味ではAK-69は「売れ線に走る」というより、先駆者といったほうが正確なのだ。自分の奥底から湧き上がった「心の言葉」以外リリックに使えない(あえて言えば尾崎豊を敬愛する「“歌”原理主義者」ゆえとでも言えばいいか)厳格な「AK-69ルール」。そのルールが生み出したラップと歌を行き来するソウルミュージック。AK-69の音楽は、その成り立ちから「The Anthem」が普遍のテーマといって過言ではない。AK-69にもその自覚はあるだろうし、そう考えればアルバムのタイトルに自らの音楽の主題を冠した『The Anthem』は、意味深い作品と言えそうだ。

 アルバムタイトルと同名の1曲目「The Anthem」には、“棚に上げれば楽なんでしょうね?”というリリックがある。“棚に上げず”自分と向き合って赤裸々な言葉をすくい取ること。その言葉を感情的に響かせること。AK-69がこの15年積み上げてきたベースには、この作業の真摯な蓄積がある。

亡き父に捧げる10曲目「Stronger」でも、AK-69はリリックで「オヤジ」と叫ぶ。父親の今際の際に立ち会い、その時の思いをリリックに込めて「オヤジ」と叫ぶ歌は、果たして売れ線に走るアーティストの言葉なのか。AK-69の言葉がポップに響いているのだとすれば、それこそがAK-69の突出したスキルだろう。

 AK-69が眩しく見えるとしたら、ゴキゲンなゴールドや車に囲まれているからではない。実は誰よりも泥仕合を繰り広げながら、その試合に酔うことなく、その足で次の試合の準備に向かうメンタリティーがあるから、今・現在のAK-69はある。そして、特別な才能がなくても、そのメンタリティーを持つことは誰にでもできる。AK-69はそう歌っているのだ。

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