AK-69の東名阪ライブツアー・「THE LIVE―6900―」最終地である豊洲PIT公演が2月2日に行われた。このツアーの開催が発表されたのは、AK−69が全国のライブハウスツアーの真っ最中だった。
昨年9月27日に地元名古屋でスタートしたライブハウスツアーは全国25カ所に及び、最終日の札幌ペニーレインでのライブは、東名阪ツアー初日1月29日ZEPP名古屋公演のわずか3日前のことだ。
全国のライブハウスツアーと69バンドを引き連れての東名阪のスリーデイズは全く別のショウケースで、後者はバンドセットというだけでなく新曲を引っ提げての公演である。スケジュール感を鑑みれば、リハーサルやレコーディングを含む豊洲PITでの公演までの4ヶ月、AK-69が怒涛の時間を生きていたであろうことは容易に想像できる。
そうしたテンションの高まりもあってか、この日のライブは幾つかの意味で特別な雰囲気が会場に満ちていた。奇しくもというべきだろうが、入場時の関係者への対応などもあって若干押しての開始となったのも、いい意味でこの夜の“特別感”を演出していたかもしれない。
日頃からアスリートにAK−69のファンが多いのは、野球を見ても格闘技を見ても自然と楽曲が耳に入り、時に入場時にAK−69がライブする姿を目するわけで、実際その支持はAK−69自身の活動から教えられることの方が多い。
この夜ライブに駆けつけたのは、メジャーリーグ・レイズで1年目を迎える筒香嘉智(ベイスターズ時代は入場曲が「Flying B」)、世界を沸かせたラグビー日本代表の面々(代表のウエイトトレーニング時のプレイリストがAK-69なのだという)、AK 楽曲のMVにも出演する元WBAスーパーフェザー級スーパー王者内山高志、年末のRIZINでは圧倒的な勝利で改めてカリスマ感を見せつけた朝倉未来、K-1からは武居由樹と江川優生の2名のチャンピオン、そして各界からは大関 貴景勝など他にも多くのアスリートが来場。これだけの顔触れが一堂に会したとあれば、有名無名という次元の話ではなく、そこに特別な磁場が生まれるのは自然なことだろう。文字通りこの夜、この日のフロアはある種異様な雰囲気の漂う特別な場だったのだ。
もちろんこうした状況はステージに現れる直前のAK−69の耳にも入っているわけで、否が応でも「下手なものは見せられない」という思いが頭に兆していたに違いない。またそれと同時に、さして時間を待たずやってくる開幕を奇妙に静かな感情で俯瞰しているAK−69もそこにはいたはずだ。そしてAK−69のライブ(作品)の真骨頂は、興奮や緊張の真っ只中にあるAK−69と、その状況を俯瞰しどこかでそれ自体を楽しみ、かえっていつもより落ち着き払ったAK−69がショウ(サウンド)の中で融合していくところにある。それはAK−69がいわゆるZONEに突入していく姿が見所なのだとも言い換えられるだろうか。
この日、バンドのイントロの後「THE CARTEL FROM THE STREETS」でステージに現れたAK−69は終始楽しそうだった。意識を一瞬でも逸らせば途端にそのうねりから弾き飛ばされそうな、縦横無尽にぶつかり合う69バンドのスリリングなサウンドをギリギリのドライブ感でコントロールしていく様に、10代から70代まで(!)の幅を持つフロアのボルテージも冒頭から絶好調。これによりAK−69も開始早々から、この夜新たなZONEに到達できるという特別な予感のようなものが漲っていた。
2019年3月に開催された武道館の2デイズ決行の半年後、それが「頂点」とは言わせないタイトなスケジュールのライブハウスツアーを開始し、この夜に至るまでの怒涛の日々を生き抜いてきたという自負。もっと言えば、日本の地方都市のストリートにいた不良がヒップホップに出会い、一途にインディペンデントでの活動から骨身を削り、経験(というより人生そのものか)を糧にした言葉で鳴らす「音楽」だけで今ここにいるーー“地方馬がダービーを制す”瞬間を見せつけてきた自負。
「今の状況が悪くないとしても、現状維持しようと思ったらあとは下がるだけなんですよ」
いつかのインタビューでAK−69はさらっとそんなことを言っていたが、だからこそ常に前に足を踏み出さなければいけないとは、いうほど簡単な話ではないだろう。それはきっと前人未到で過酷で孤独な道のりでもある。
こうしたAK−69のアティチュードが、きっといつでも囁きかけてくる心身の限界や、求められるのは勝利という結果だけで、どうしたって付いて回る二つに一つの敗北に向き合うアスリートの琴線に触れるのだろう。またアスリートだけでなく、責任やリスクが日常的について回る起業家や経営者のファンが多いという(中には楽曲が社歌だった企業もあるという)のも頷ける話だ。
「死ぬにはいい日だ」
ライブ中のMCではネイティブアメリカンの言葉を引き、全ての瞬間を後悔しないように、今日が「最期」かもしれないと思って生きるという自らの人生哲学をAK−69は吐露していた。AK−69が日頃からよく口にする「死ぬほど生きる」という言葉も同様だが、このシンプルな美学がAK−69の音楽が観る者に明日の活力を与えている理由なのだろう。要するに「聴くと元気になる」のがAK−69の音楽なのだ。そして、その音楽は何よりライブで観るのが一番いい。消費され入れ替わりの早い世の流れの中で、AK−69が日本のヒップホップシーンのトップに君臨し続けているのは、ごまかしのきかないライブでもっとも本領を発揮しているからだ。この日は改めてそう納得した夜でもあった。
AK−69のこれまでのイメージ(アンセムやセルフボースト)とはまた少し違う、新たな手触りとなる新曲「Hallelujah」の披露、TAKUYA∞(UVERworld)を呼び込んでの「Forever Young」、そして「(これまでも有言実行してきたように)東京ドームでのライブを実現する」(という宣言!)など、様々な見所をもってこの日のライブは幕を閉じた。
AK−69の次なる一歩が待たれる。Show must go on!! Yeeeaaahh man!!!!
photo by cherry chil lwill.
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